UE4ぷちコン 映像編 2nd 応募作を振り返る

昨年に引き続き、ヒストリアさん主催の「UE4ぷちコン 映像編 2nd」に応募しました。

惜しくも入賞は逃しましたが、本当に惜しかったらしく審査発表会の「惜しかった作品」枠で紹介していただきました。ありがとうございます! ※1時間8分すぎぐらいで紹介されます

短いとはいえ、ひとつの作品を自分の手で完成させるということはやはりよい経験になりますね! ということで、制作過程について振り返ってみたいと思います。

グレイマンのリペイント

今回は登場キャラクターにグレイマンことUE4_MannequinとグレイウーマンことUE4_Mannequin_Femaleを使っています。実は当初には、複数のグレイマン・グレイウーマンを登場させる構想があり、個体差を出すためにマテリアルのバリエーションを作れるよう準備していました。結果的には1人ずつしか出さなかったのですが、テクスチャの情報量を増やしたことで背景アセットとバランスが取れたので、これはこれでよかったと思います。

テクスチャの作成自体は、Substance Painterでスマートマテリアル等をあれこれしただけです。

ただし、グレイマンのデータ構造は一部のポリゴンが重なっていたりUVがオーバーラップしていたりと、そのままではSubstance Painterで使うには不向きでした。また、造形のディテールはNormalマップで表現されており、マテリアルの塗り分けにはRGBのマスクが使用されていたので、これらのテクスチャは引き継ぐ必要がありました。

そういった事情により、まずCINEMA 4Dで下準備をしています。具体的には以下のような作業です。

  1. 胸のUE4ロゴ部分の重なっているポリゴンを削除する
  2. オーバーラップしているUVを分離、再配置する
  3. 再配置したUVに合わせて既存のNormalとMaskのテクスチャをリマップする

2以降の工程の注意点としては、Normalテクスチャは角度を変えてはいけないとか、UVの面積が増える分テクスチャサイズも元より大きくしなくてはいけない、といった点が挙げられます。

下図の左がオリジナルのUVです。大きな四角い部分は胸の上に重なっているUE4ロゴ用のポリゴンで、これはポリゴン自体を削除します。赤く表示されているのはUVがオーバーラップしている部分で、つまり全部オーバーラップしています。左右対称の部分はミラーで重なっており、形と質感が共通の小さなパーツはまとめて一カ所に重ねられています。

右が再配置後のUVです。まず角度を維持したままオーバーラップしないようUVパッキングし直した後、裏返っているミラーの反対側を左右に反転し、再度パッキングしています(選択されているのが反転した部分)。

あまり知られていないようですが、C4DでもUV編集に合わせてテクスチャを再配置(リマップ)することができます。UVを編集する前にポリゴンを選択して「Store UV(UVを記憶)」、編集後に「Remap…(再マップ)」から対象となるテクスチャを指定して実行という手順です。

ただし、この「再マップ」機能ではサブピクセルサンプリングやフィルタリングは行われず、UVの境界のパディング処理もされません。今回のようなケースでは、普通にやるとテクスチャがかなり劣化してしまいます。

そこで、オリジナルの2KテクスチャをいったんPhotoshopで8Kに拡大し、C4Dでリマップ、その後にPhotoshopでパディング処理などを行い、4Kに縮小してテクスチャを書き出すという方法を取りました。また、UVを左右反転した部分ではNormalテクスチャのX軸にあたるRチャンネルを階調反転しています。

C4Dのリマップ機能は便利ではあるのですが、上記のような機能上の不足のほか、ユーザーインターフェイスが不明瞭であるとか、C4Dにしては珍しく動作が不安定とか、使いにくいところもあります。C4DのUVやテクスチャの編集機能は継続的にアップデートされているので、このあたりの改善にも期待したいところです。まあ、変更するのがUVとテクスチャだけであれば、3D-Coatあたりでやったほうが早そうですが……。

編集したグレイマン・グレイウーマンは、C4DからFBXで書き出します。このFBXファイルとリマップしたNormal、MaskのテクスチャをSubstance Painterで読み込んでテクスチャ作成を行いました。また、UE4へも新規のスケルタルメッシュとして読み込んでおきます(スケルトンはUE4_Mannequinを指定)。

背景アセット

背景はUE4のマーケットプレイスで購入したアセットを使用しました。映像のパッと見のきれいさはおおむねこれらのアセットのおかげです。

街のアセット Cyberpunk Downtown vol.2

食堂のアセット Modular Vintage American Diner

街のアセットの一部を削って隙間を作り、そこに食堂のアセットを押し込んでいます。ほか、ライトの追加、ポストプロセスの調整、窓の曇りテクスチャの追加などを行っています。

降っている雪はまた別のアセットから雪のParticleだけ持ってきました。背景アセット本体のほうもとても味のある風景なので、いずれ使ってみたいと思っています。

雪だけもらってきたアセット Russian Winter Town

楽曲

音楽もマーケットプレイスで購入しました。こちらのパックにある「In Remembrance」という曲です。これ、たまたまバッチリ合うのが見つかったんでよかったですが、求めている雰囲気と長さが合う曲を探すのはなかなか大変ですね。

音源のアセットに関しては正直、マーケットプレイスからUE4アセット仕様のを買うより制作者直販等でwavファイルで買ったほうが便利だと思うんですが(効果音アセットはAudio Cueもついてるけどwavを放り込んであるだけだし)どうなんですかね……。

キャラクターアニメーション

キャラクターのアニメーションは一部を除いてCINEMA 4Dでつけています。

先の工程で加工したリペイント版のグレイマン・グレイウーマンですが、自作のキャラクタツールを使ったリグつきのスケルトンに差し替えてあります。公開しているほうのキャラクタツールは簡易的なリグしかついていませんが、こちらはちゃんと芝居ができる仕様のリグです。こちらのリグも公開したいと思ってはいるのですが、マイナーな不具合が解決できていなかったり、仕様が自己流すぎて使い方がわかりにくいといった事情で、いまだ公開には至っていません。

今回はただ思いつくままにモーションをつけてしまいました。細かいテクニックはいろいろあるのですが(コンストレイントとか)、全体としてはいきあたりばったりに勘でやっています。

グレイマンのアニメーションをタイムライン(ドープシート)で見るとこういう感じになっています。Fカーブの調整はほとんどやっていません。最下段の「root」以下が、アニメーションをキーにベイクしたジョイント階層で、こちらをFBXで書き出してUE4に渡します。

オブジェクト(アクター)単位のアニメーションであれば、UE4のDatasmithプラグインで.c4dファイルをそのまま持ち込めるのですが、スケルタルメッシュのキャラクタアニメーションはFBXでやりとりする必要があります。この際、座標系の違い(C4DがY-up、UE4がZ-up)やシーンルートの座標値の扱いの問題があるため、UE4とC4Dのオブジェクト(アクター)の配置を一致させるには慎重な作業が必要です。そのへんについてはネットにも情報がぜんぜんなく、僕もいまだ確信が持てないまま自己流でやっています。今回も実は、グレイウーマンと手に持っている小道具の位置がUE4ではわずかにずれてしまい、座標値をいじって無理矢理合わせたりしています。

FBXで受け渡したアニメーションは、「グレイマン」「グレイウーマン」「小道具」の3つです。モーションはC4Dでつける前提でしたが、スケルトンの仕様はオリジナルのグレイマンと合わせてあるので、いわゆる「Epic Skeleton」のアニメーションアセットもそのまま使用可能です。今回は、後半のグレイウーマンがもじもじしているモーションのみ、既存のアニメーションアセット(Generic NPC Anim Packの「Anim_Idle_6」)を使っています(速度だけ調整しました)。やはりスケルトンはEpic Skeleton準拠にしておいたほうがいざというとき安心ですね!

「ぬ」ってなんだ

審査発表会でも言及されていた「ぬ」ですが、はっきりこうという意味づけはしていません。テーマの「ぬくもり」を取り入れるにあたり、「冬の寒い風景と屋内の暖かそうな雰囲気の対比」ってことで十分かなとも思ったのですが、「ぬ・くもり」というフレーズと字を書く行為を思いついたのでそのまんま盛り込みました。グレイマンからグレイウーマンへのメッセージであることは確かなので、二人の関係を想像したり、グレイマンの謎の思考回路を推理したりしてお楽しみください。

グレイマンが窓に「ぬ」の字を書くところ、実は手の動きにもちゃんと「ぬ」の字をなぞるモーションがつけてあります。いろいろあって、本番の映像ではこの動作はほとんど見せずに終わりました。

 

今回の作品、当初の構想では何人かのグレイマン・グレイウーマンが登場し、もっとあれこれ起こるはずだったのですが、締め切りに間に合わせるためにほとんどカットしました。いちばん大事なところだけ残してあとはばっさり削ったわけですが、出来上がった映像を見ると、1分でちょうど収まっていますね。案外これでよかったのかもしれません。

ぷちコンが「ぷち」であること

ぷちコン映像編の「30秒から1分」という映像尺、また、比較的少ない日数での制作が求められる募集期間は、作り手の側に「腹を括らせる」ためにちょうどいいレギュレーションなのではないかと思います(もちろん本編のゲーム作品コンテストのほうも)。――あれこれ考えても全部は入らない、こだわればきりがないが時間は限られている、だが完成させることを最優先するなら応募には間に合う――。こうした状況に置かれて作品を制作することで、作り手は何よりも「完成させること」を意識して作業を進めることになります。

自主制作ではついつい完成を先延ばしにし、そのうちにお蔵入りさせてしまうということがままあります。まずは「完成させる」ことを強力に後押ししてくれるぷちコンというイベントは、とてもありがたいですよね。